私が一番よく見るテレビのチャンネルはBBCである。これはイギリスの公共放送であり、国民から徴収する受信料が財源となっているということはNHKとBBC-日英公共放送比較というコラムで書いた通りである。公共であるからにはもちろん公平な立場でなければならない。従って特定の会社名を口にしたり、特定の商品を取り上げてそれをけなしたり、ほめたりすることは言うまでもなくご法度である。
私が日本にいた時に見たNHKの番組では商品のラベルには紙が貼られて会社名が隠されていたし、反対に民放ではスポンサーの商品が使われ、商品名が画面に映るようにわざわざカメラのアングルを調整し、視聴者にアピールするのがあたりまえであった。NHKのアナウンサー達はよく訓練されているのでうっかり商品名を口にすることはほとんどなかったと思うけど、これが民放の番組のゲストであったりすると、ついスポンサーのライバル社の商品名を口にしたりして局のアナウンサーがあわてて訂正したり、注意をうながしたりすることがままあった。
-なるほど、公平であるということはこういうことであるのか!と思ったもんだった。ところがそういう見方になれてしまった目でイギリスの公共放送を見ると、ええっ!と驚かせられることが少なくない。特定の商品をほめたりけなしたりしてはいけない?ふざけるな、いいものをいい、悪いものを悪いと言うことのどこがいけないんだっ!公共の利益につながるそういう意見を言ってはいけないということは言論の自由に対する冒涜であるっ! と番組制作者が思っているかどうか知らないけど、時として言いたい放題、個人の意見の発表の場と化していることがあるからである。
そんな番組のひとつを紹介しよう。その番組の名は ‘トップギア(Top Gear)’ と言う。
この番組の司会者は Jeremy Clarkson(ジェレミー クラークソン) といい、彼を中心とした何人かのメンバーで番組は構成されている。この番組の目的はより良い車の情報を視聴者に提供し、車の製作会社に消費者の率直な意見を伝え、全体として車および車社会の発展、向上を目指すということにある。
扱うネタが車であるから会社名、車名などを隠すわけにはいかない。排気量、グレード、値段などは全てオープンである。その上でジェレミー他、各自が意見を言い合うわけだ。この車はいいとか良くないとか、好きだ嫌いだ等、すべて主観的意見である。
大体、車には個人の好みが反映されるので、人によって意見が違っていて当然であり、それを基にして良し悪しを論じると言うのはかなり無謀である。
もし金に関係なく車を1台選ぶとしたらどの車がいいですか? と聞かれればそれこそ10人10色であろう。若い男性ならフェラーリと言うかもしれないし、年配の方ならベンツとかレンジローバー、女性だったらう~ん、何でしょうか。
女が車を選ぶ時、自分で運転する車と助手席に乗りたい車では当然違うので、どの車が一番人気なのかはわかならいけど、私個人のことを言うならそれは旧型ミニであり、イギリスに来て以来3台も乗り継いでいるので、これに関してはある意味で非情に満足している。(ミニに乗ってみませんか-参照)
しかしこの番組のレギュラー陣は全て男性であり、女性の意見というのは番組にはあまり反映されていない。それに女性に人気のある車というカテゴリーはイギリスにはない。
ちなみに私の夫にこのことについて聞いてみたところ、
‘女が好きな車は赤い車’ と答えた。あのなあ、私をなめてんじゃないのっ!

と思うけど、これもまんざらうそではない。私の元マネージャーは今の車を買った理由は色が赤だったから、と言っていたし。大体、見ただけで車種を言い当てられる女性が全体の何%いるのであろうか。男女で比較するなら絶対男性より低い数字になるであろう。まあ、全ての車を見分けるのは普通の人間には無理としても、車名と会社名、および国籍くらいは一致できるはずである。ところが女性にはこれすら怪しい人が結構いるのである。
乗ってみたい車と欲しい車、そして実際に運転している車はほとんどの人が違うと思う。何台も車を所有できるのならともかく、大多数の人には1台が普通であり、2台持てる人はそんなにいないと思う。従って2人乗りのスポーツカーは独身にはいいけど、家族がいれば4ドアのセダンやワゴンを選ばなくてはならなくなるわけだ。それでもお金に余裕があればドイツ製の高性能車を買えるけど、それもままならなければフォードあたりで妥協せざるを得なくなる。
日本でフォードというともしかして人気のあるブランドかもしれないけど(友人に私の夫はフォードに乗っていると言ったら、ええーっと驚かれたので。ふつーの車なんですけど)、イギリスではそれはトヨタのような存在であり、売れている車の1位がフォーカス、3位がフィエスタ、6位がモンデオである。もっともこれらの車が日本にあるかどうかは知らないけど。
イギリスには軽自動車というカテゴリーはないが、1300cc以下の排気量の車は税金が安くなっているのでこれが一応小型車に相当するのだと思う。私の旧型ミニをはじめ、上記のフィエスタ、Ka、日本の軽の輸出仕様車、韓国車、イタリア車などがしのぎをけずっている。こういう小さい車なら小回りが聞いて運転しやすく、女性には受けるんじゃないかなと思うんだけど、こと子持ちの女性に至ってはそれが当てはまらないのである。
それではイギリスの母親はどんな車が好みかというと、それは大型のオフロードタイプ、たとえばランドローバー、ショーグン(パジェロ)、ランドクルーザーなどである。イギリスでは小学生の間は保護者が送り迎えをしなくてはならないという決まりがあり、よほど学校が近くない限りみんなは車で送り迎えをする。学校の周辺は混雑するので、時として結構離れた場所に車を止めなければならないけど、子供が一人以上いる場合は小さな兄弟もいっしょに連れて校門まで行かなくてはならない。その際にはプッシュチェアというベビーカーに幼児を乗せるので、それらが楽に積めるくらいのラゲッジスペースのある車ということが重要になる。それに大きな車だとぶつかっても搭乗者は大丈夫なことが多いし、年に1回あるかないかの雪の日でも4WDだと安心、ということでこの手の車に人気が集まっているらしい。それに何と言っても、みんなが持っているとなれば欲しくなるのが人情であり、見栄なのである。
我が家の裏には道路を挟んで小学校があるから、朝夕の登下校時には道路沿いに車がずら~っと並ぶのだけれど、特に雨の日は車の数が多くて困りものである。みんなもっと歩けばいいのに、といつも思う。ではなぜ歩いて送り迎えをしないのかというと、それは面倒というより、安全のためなのだそうだ。つまり車が多くて、はねられでもしたら困るから車の方が安心なのだそうだ。そうするとまた車の数が増えて...ということになり、堂々巡りになってしまう。私の小中学校時代は理由がない限り、バスも車も禁止だったけどね。時代が変わっただけではなくお国も違うから比べられないかもしれないけど。でもやっぱりこすっただの、ぶつかっただのいう小さな事故が絶えない。確かに狭い道であの手の大型車が行き来するとなると仕方ないかなあと思う。まあ、これは女性だからへたなのか、男性だったらこうならないのか、というのは何とも言えないけどね。

ところでトップギアの司会者のジェレミーは身長が190cmもあるうえに横幅も結構あるから小型車だと窮屈らしく、彼が乗ると車が小さく見える。これが旧型ミニだったりしたら、当然目いっぱい座席を下げてもまだ窮屈で、頭の上にはほとんど余裕がない。反対にリチャードはおそらく平均的日本人くらいの身長(170cmくらい)だと思うので、運転する時はシートをかなり前に出さなくてはならない。私個人は160cmだけど、車によっては座席を一番前に出してやっと届くくらいということが時々ある。私より身長の低い人はどうやって対処しているのかなあ、と思う。
私の元同僚の女性は私より背が低く、ポチャ型体形でオッパイはメロン並みであったから、運転する際はどうしていたのかなあ。彼女の運転する車には乗ったことがないのでわからないけれど、オッパイがハンドルにつかえたりしなかったのかなあ、と思う。それにもう一人、彼女より背が低くて小玉スイカ並みのオッパイの持ち主がいたんだけど、この人は幸か不幸か免許を持っていなかったので、そういう苦労をせずに済んだわけだ。(興味は尽きないんですが)
日本人とイギリス人の平均身長の差は8~10cmくらいだと思うけど、車の大きさにはそんなに差はない。大体、例の旧型ミニを設計、開発したのがイギリス人なのだから、日本人より体格のいいイギリス人があんなに小さい車を半世紀近くにわたり作り続けたのは小さい車の方が乗り回しやすいからということがいえると思う。もっとも製造中止になる前の何年かはミニの40%は日本に輸出されていたんだけどね。
実際ヨーロッパではでかいアメリカ車はあまり走っていない。最近はアメリカ車もだいぶサイズが小さくなったけど、以前は走るクジラといった感じで、曲がらない、ふわふわしてる、ガソリンの大喰い、であり人気はなかった。アメリカには行ったことがないけど、道なども広いし制限速度も55マイルまでなのでああいうデカい車でゆったりと走るのが向いているんだろうと思う。でもガソリンの値段が高く、道も狭いヨーロッパにはデカいアメリカ車は向かないのである。
この番組では新車を購入した人を対象に調査を行い、それを一覧表にして毎年発表する ‘顧客満足度調査’ というコーナーをやっている。これは車自体の満足度に加えてアフターサービスなども含まれるもので、次にその車を買うことを検討している人の目安になるものである。
この調査において上位は日本車で占められるのが常である。というか、私がこの番組を見るようになって以来、1位はほとんど日本車であり、多い時には上位10車のうち9車が日本車ということもあった。ちなみに2004年と2005年の1位はホンダのS2000が連続して選ばれた。その他、2005年の調査結果は次の通りである。
1位 ホンダ S2000
2位 レクサス IS200/300
3位 レクサス RX300
4位 スコーダ Superb
5位 スコーダ Octavia
6位 ホンダ Jazz
7位 ホンダ アコード
8位 スバル レガシィ
9位 スコーダ Fabia
10位 スバル フォレスター
日本車以外では唯一、スコーダが入っている。このスコーダという会社は元チェコスロバキアにあり、ベルリンの壁の崩壊の後にフォルクスワーゲンの傘下に入って以来、急激に伸びてきた会社である。以前は安かろう悪かろうでいつもジョークの種になっていたけど、1991年以後、その品質とサービスの向上には目を見張るものがあり、ついには上位10車の内、3車も入るようになった。クラス別では中型ファミリーカーの1位に選ばれているくらいである。
2003年の総合トップはジャギュアーXJだったが、次の年に2位になり、昨年は上位10車には入っていない。いったいどこへいったのであろうか。大体、ジャギュアー、ロールスロイスなどの英国の有名自動車会社はこの調査にはほとんど出てこないのである。フランス、イタリア車も上位には縁が薄いみたいだけど、それらの車はどこにいるのであろうか。ここで2005年の下位10車を見てみよう。
シトロエン Xsara
プジョー 206
ルノー メガン
ローバー 25
フィアット Stilo
メルセデス Mクラス
ルノー Laguna
ルノー Espace
プジョー 307
プジョー 807 (最下位)
おおっ、なんと下位10車はヨーロッパ車のオンパレードではないか。しかもそこにはメルセデスまで入っているっ!ちなみにこのMクラス、2004年版では142位の最下位であり、2003年版では下から5番目という散々たる成績で下位車の常連なのである。
ところでパッと見た目にはアメリカ車が入っていないから結構いい成績なのでは、と思うかもしれないけど、例のクジラたちは調査の対象になるほど購入者がいないのでいつも蚊帳の外に置かれているから、こういうところには幸か不幸か出てこない。
その他、トップギアでは有名人によるタイムトライアルも行なっていて(同じ車で同じコースを走る)、これまでの最高タイムは元F1ドライバーのナイジェル マンセルによって出されている。プロドライバー以外での1位はエレン マッカーサーである。この人はヨットの単独無寄港による世界一周記録を2005年に樹立してデイム(男性の サー Sir にあたる)という称号を貰った人であり、並み居る男性陣を押しのけての快挙である。このトライアルは今でも続けられているのであくまで暫定1位なんだけど、それにしてもすごい!やったね。

これまで3人のF1ドライバーが挑戦しているんだけど、エレンのタイムはマーク ウエッバーを上回っているというから、ヨットの次はレーサーにでもなればまた成功するかもね。
それからおなじみのコーナーのひとつに車別のタイムトライアルがある。これはスティッグ(Stig)という覆面ドライバーが上記のタイムトライアルと同じコースをアタックするというものである。このスティッグが一体何者であるかは今のところ全くわかっていないけど、私の夫はそれはデイモン ヒルだと信じていたのに、ある時彼がゲストとして番組に招かれその疑惑を否定して以来、またわからなくなってしまった。
このトライアルは一般道路を走行できる車に限定されていて、現在の最速車はパガーニ ゾンダである。これはイタリアのパガーニ社が作っているスポーツカーで、最高速度は時速336キロ、エンジンは7.3リットルというモンスターで、年間25台が手作りされているという。記録は1分18秒4である。2位はマセラティMCで1分18秒9、日本車の最速はミツビシEvoV111で、1分28秒9である。
このトライアル、一般道路走行OKの車が対象、といったけど、そこはさすがのトップギア、ちゃんとそれ以外の車でもタイムを計っているので紹介しよう。
F1カーが59秒、アストンマーティンDBR9が1分8秒6、それになんと英国軍のハリアージェット機が31秒2である!このハリアーとF1が並走したレースはおもしろかった。もちろんハリアーは細かいカーブを正確になぞることは出来ないから大きくコースをはみ出してのレースになったけど、その加速力たるやすさまじく、F1カーを大きく引き離す結果になったのである。こんなこと日本では実現しないよっ!
この番組の最新放送では車によるウインターオリンピックゲームが行なわれた。それはノルウェーのリレハンメルにおいてのバイアスロン、ミニジャンプ、オフロードスラロームである。バイアスロンでは異なる2台の車を運転し、銃で的を打つというものだったが、このときにマシンガンを使ったジェレミーは正確さに欠け、ライフルを使ったリチャードに負けてしまった。
次はBMWミニによるスキージャンプで、ミニにスキーをはかせ、ロケット噴射で勢いをつけ、ジャンプ台から飛び出させた。この競技のため10台のミニがだめになったけど、それらの車はスポンサーが寄付したのかな?いずれにしてももったいない話である。
オフロードスラロームではジャギュアーとレンジローバーの戦いとなり、当たり前だけど4WDのローバーが勝った。ジャギュアーはスピンしてばかりでゴールも出来なかったのである。
最後にフリーズハモンド。これはシトロエンC1とリチャード ハモンドを液体窒素の冷凍庫に入れ、どっちが先にだめになるか、という競技である。安全のため体温モニターを装着したリチャードはチームメイトの好意によりセーターとマフラーを渡され、試合に挑んだ。結果は-17℃で軽油が凍ってしまい、アウト。後はリチャードの鼻が凍傷になる一歩手前で電気系がだめになり、結局人間が勝った。こんな競技なんて出たくないなあ。

このトップギアという番組を見ているとよくこんなこと考え付くよなあ、ということが少なくない。このウインターオリンピックゲームにしたって、結果に興味はあるけど、なんのためにわざわざこんなことするの~?と言いたくなってしまう。でもまあ、自分の車が痛むわけではないから、ま、いっかで終わってしまう。
ところで、誰であれ自分の車がけなされてうれしいはずがないと思うけど、この番組には車をイメージで4段階に分類するコーナーがあり、それらは超クール、クール、ダサい、超ダサいに分けられている。このうち超クールには今のところ8台が入れられており、中にはBMWミニクーパー、ケイターハムR400、フィアットプントなどがある。反対の超ダサいにも 8台が入っていて、それらはポルシェ3台、アウディ1台、BMW2台、他 2台である。
ええっ、なんで~?と誰もが思う。でもこのランクわけの基準はあくまで出演者の主観なのでこういうことがおきるのである。ちなみにポルシェのうちの1台はリチャードのポルシェである。
余談だけれど、イギリスでは身長が低くて細身の男性がパワフルな車を運転し、男っぽさをアピールすることを ‘Penis Extention' と言う。 リチャードの場合がこれにあたるのかどうかは知らないけれど。

最後に司会者のジェレミーが乗っている車は一体何? と誰もが知りたがると思う。何といっても一般人が一生涯で運転を経験できる車の何倍もの車を試乗してきているわけだから、彼が選ぶ車はよほど洗練された優秀な 1台ということになるからだ。
ではその車は何かと言えば、以前はフェラーリだったけど、今はメルセデスに乗っているのである。じゃあ、どのメルセデス?う~ん、前に見たような気がするけどおぼえていないなあ。でも絶対間違いないのはMクラスじゃないってことである。あれってそんなに良くないのかなあ。メルセデスさん、私に1台貸していただければ1年間ほど試乗した上でこのフォーラムに発表しますけど、どうですかね。えっ、お呼びでない? こりゃまった失礼しました~。
