私がイギリスに来た頃、テレビには4つのチャンネルしかなかった。すなわち、BBC1と2、民放のITV,チャンネル4の4つである。BBCと言うのは Brithish Broadcasting Corporation のことで、日本語名は英国放送協会といい、日本で言えばNHKにあたる。
BBCは公共放送であるから、財源はもちろん国民の受信料( TV ライセンス)でまかなわれており、2006年現在の受信料はカラーテレビで 131.50ポンド(2万 6千300円)、白黒で 42ポンド( 8千4百円)である。これはBBCを見るからという理由ではなく、たとえ民放だけを見るとしても払わなくてはならないのである。
ちなみにNHKの受信料はどうなっているのかとネットで検索した所、年間 2万5千250円という結果が出てきた。不思議なことにイギリスと日本の公共放送の受信料はほぼ同じ額である。これって偶然の一致なのかなあ。まあ、それはともかく、NHKの受信料について調べた時に、あまりに数が多くてびっくりさせられたのが受信料の不払いに関してのサイトだった。それらを読んでいると日本には受信料を払っていない人がかなりいるのではないか、と思われる。それに不本意ながら払っているという人も加えるとかなりの割合になりそうだ。納得して払っていますと言う人が国民の何割いるのかなあ、と考えざるを得ない。
日本の場合、‘見ないから払いません’ でもいいし、‘勝手に映るだけだからそっちで映らないようにしてくれ’、でも法律上問題ないのだそうだ。それに関しての罰則もない、とその手のサイトには書かれていた。
思い起こせば確かに日本にいた頃、NHKはあまり見なかった。以前金沢ではテレビはNHK2つと民放2つのたった4つしかチャンネルがなかったけれど、それでも見ることは稀だった。今では金沢でも6チャンネルに増えており、ますます見なくなったのではないかなあ。これが都会ならもっとチャンネルの数が多いので、さらに輪をかけて見ないのではないかと思う。だから受信料を払えといわれても、なんでや~?と思う人が多いのもうなずける。
現在のイギリスでは第 3の民放、チャンネル5が出来たため、地上波で 5つのチャンネルがある。衛星放送やケーブルテレビにはいったいいくつチャンネルがあるのか知らないけど、とにかくたくさんある。我が家ではBBC1と2も良く見るし、民放ではITVを見ることが多い。かといってフットボールに興味はないし、映画だって放送予定をチェックして見るほど好きでもないから、そういうチャンネルの為に余分なお金を払ったりしないけれど、地上波では映りが悪いのでケーブルテレビを通じてテレビを見ている。
イギリスではテレビの電源を入れるというだけで受信料の支払い義務が生じる。などと書くと日本にいる人はうっそーーーっ!と思うかもしれない。しかしこれは事実である。見る見ないに関係なく受信料は払わなければならない、と法律で決められているのである。たとえコンピューターゲームをするためであっても、ビデオを見るためだけであっても、たとえそれが外国で録画されたビデオであっても、テレビを通じて見るのである限り受信料を払わなければならないのである。アンテナが取り付けてあるかどうか、もしくはアンテナに接続されているかどうかと言うのは問題にならないのだそうだ。もちろんケーブルテレビでも衛星放送でもチューナー機能を持ったコンピューターでも事情は同じである。以前は衛星放送は外国籍の放送局に照準を合わせてある場合は受信料は払わなくてよかったが、今ではそういう場合でも払わなくてはならなくなった。だからといって払う義務があるのに払っていない家庭はイギリスではかなり稀である。なぜなら払わないことによる不便さが払わなければならない金額より上だからだ。
ではもし受信料を払わないでテレビを見るとどうなるのであろうか。
第一に、どの家庭が払っているかはコンピューターに入力されているのでわかっている。そこで払っていない家庭の周りを専用のバンで巡回し、テレビのスイッチが入れられた時に発生する電波が得られるかどうか調べるのである。
この電波、ローカルオシレイターシグナル(Local Oscillator Signal)といって、スイッチが入れられているときにテレビのチューナーの部品から出ているのだそうだ。その専用バンにはレーダーのように電波をキャッチするアンテナが取り付けられ、かなりピンポイントの正確さでわかるそうである。もしこの監視員に受信料不払いが見つかった場合、まず150ポンド(3万円)程度の罰金を払い、なおかつ受信料を払わなければならない。受信料そのものは月払いでもいいそうだが、年間分一括払いより割高になる。もしこの罰金を払うのを拒否した場合、裁判沙汰になるわけだけど、その結果どういう罰則が科せられるのかというと、千ポンドの罰金が科せられます、ということを何度もBBCでやっているからきっとそうなのであろう。
この受信料の支払い義務、たとえコンピューターゲームをするためだけでも払わなければならない、と先に書いたけど、正確を期すならこの表現は正しくない。それでは正しい表現はというと、もし受信能力のあるテレビでゲームをしたら支払い義務が生じるというものである。ビデオにしても同じである。だから受信能力のないテレビでゲームをしたりビデオを見たりする分には支払い義務はないのである。ということはテレビのチューニング機能を効かなくすればそれでOKということになる。
実は以前、ある人がこの受信料の件について裁判を起こした事があった。その人は自分はテレビは一切見ず、ビデオの再生のためだけにテレビを使っているのだから自分には支払い義務はない、と訴えたのだが、裁判官が下した判決はそのテレビには受信能力があるから支払い義務がある、というものだったのだ。
このチューニング機能を効かなくする作業は素人では難しく、やはり専門家に頼むのが無難であろうと私の夫は言っているけど、その手間賃を払ってでもテレビ受信料は払いたくないという人がいるなんて聞いたことはない。
BBCとNHKの番組の内容を比較すると、なぜイギリス国民があまり文句を言わずに受信料を払っているかがわかると思う。実際、よく見られているし、面白い番組も多いのである。イギリスで行なわれた調査によると、58%の国民がもし選べるならBBCの受信料を払わない代わりに見ない、と答えたそうだ。ということは42%の国民はお金を払ってでも見たいと思っていることになる。この調査、日本で行なわれたとしたら、どれくらいの人が払いたくない方を選ぶのだろうか。NHKの関係者にとっては結果を知るのがちょっと怖い質問である。私個人はといえば、なんせ見ませんからねえ。ほっほっほ。
ところでイギリスでは一家に何台テレビがあろうと受信料(TVライセンス)は同じである。これは日本でも同じだと思う。もし別荘などがある場合は別個に払わなくてはならない。まあ、別荘をもてるほどの人ならたかだかこれくらいのお金などなんてことないはずだけれどね。その他、イギリスではキャラバンといって車で引っ張っていくホリディホームも人気があるけど、そういう時だけは別個のライセンス料を払わなくてもいいそうだ。一度に2箇所で同時にテレビは見れないからね。では、家族のうち何人かはキャラバンホリディに行き、何人かは残るという場合どうなるのかというと、ひとつのライセンスで見ていいのは同じアンテナからのシグナルだけなので本来は違法なのだそうだ。もっともそこまで厳しくチェックすることはないと思うけど。
盲目の人はライセンス料が半額である。ラジオと違って目が見えない人がテレビを見てどれくらい面白いのかはわからないけれど。それに反して聴覚に障害のある人には割引がない。最近では手話つきの番組や字幕つきの番組が増えているからであろうか。それに加えて読唇術というものもある。唇の動きでしゃべっている内容がわかるというやつだ。この特殊技術、意外な所で使用されていて、有名人がホリディ先でくつろいでいる所を望遠レンズで覗き、何をしゃべっているか調べてその情報を元に張り込みをしたりするのだと言う。タレントのみならず政治家やスポーツ選手などもこういう覗きの対象になっているそうだ。壁に耳アリ、というのは昔の話で、今はそれこそそこらじゅう耳だらけなので自分は有名人じゃないから、なんて思わずに誰でもみんな注意する必要がある。
それと75歳以上の人は無料である。だから75歳以上の人と同居している人はタダでテレビが見れることになる。イギリスでは核家族が普通なので、親と同居している成人は極端に少ない。日本の家のように親子3代とか4代がいっしょに暮らしている家というのはまずないと思う。だからこのことによって恩恵を受けている人は当の本人以外ほとんどいないことになる。
もし日本でこれを実施したとすればどうだろうか。年間2万5千円を浮かすだけのためにお年寄りとの同居を決意する人はあまりいないと思うけど、ゼロではないはずだし、老人介護という点で何らかの効果があるかもしれない。もっともこれからもっと老人が増えていくわけだから、75歳以上は無料ということにすると、今よりもっと受信料収入が減る可能性が高いからやっぱりダメかな。
イギリスでテレビライセンスを払っていない人が監視員に見つかった時、色々な言い訳(Excuse)を言う。日本のように ‘見ませんから払いません’ では通じないからだ。それではこの言い訳の天才である所のイギリス人はどんな言い訳を述べているのであろうか。ここに紹介してみよう。
-‘TVをつけてあるのは暖かくて気持ちがいいからよ。うちの猫ちゃん(わんちゃん)が眠るのにちょうどいいからよ~。見るためじゃないの。’
-‘TVは壊れています。なぜあそこの赤いランプが点いているかって?それは湿気を入れないために点けてあるんです。’
-‘うちにTVはないよ。ああ、サテライトディッシュはあるさ。何のためにあるかって?あのな、若いの、これを見ろ。ここに牛乳があるだろ。でも牛乳があるからといって乳牛を飼っているってことにはならないんだ。’
-‘ある日神からの啓示がありました。神はテレビを買うようにと私に言われました。なぜなら伝えたい大事なメッセージがあるからと言われました。’
-‘TVはうちにないわよ。えっ、調べたい?じゃあ、ちょっとまってね。うちには凶暴な猫がいて、知らない人を見ると襲ったりするから隔離しないとだめなのよ。玄関で待っててくれる?’ その後、がたがたと家具を移動する音が室内から聞こえ、時々猫を呼ぶ声も聞こえた。そこに台所から実に人なつっこい赤い首輪をしたシマ猫が現れ、ゴロゴロとのどを鳴らしすり寄って来るではないか。‘お宅の猫はどんな模様ですか?’ ‘茶色のシマ猫で、赤い首輪をしてるわよ。さあ、もう入ってもいいわ。’
監視員はギョッという顔の飼い主に猫を渡し、バルコニーに置かれていたTVを見つけるのに何の造作もなかった。
-‘うちは最近引越ししてきたばかりで家中バタバタなのよ。でもTVライセンスがどこにあるはちゃんと覚えてるわ。2階の前方の寝室のワードローブの上の靴箱の中よ。今忙しくてダメなの、また後で来てくれる?’ その日の夕方、同じ家にやってきた監視員は夫にライセンスのことを聞いた。
‘いやー、家中バタバタしててどこにあるのかよくわからないなあ。’
‘2階の前方の寝室のワードローブの上の靴箱の中にあるはずですよ。’
‘最近のテクノロジーが進歩してるのは知ってたけど、そんなことまでわかるのかい?まさかそこまで進んでいるとは驚いたなあ。’
-‘うちの猫がゲロを吐いたんでTVは壊れたよ。’
-パンツ一丁ではだしの男が出て来て言った。‘ここに住んでいるんじゃないんだ。知り合いの飼ってる犬に餌をやりに来ただけさ。’
-‘TVライセンス?うちの妻が手配してると思ってたけどなあ。’
-‘あのTVはうちのペットのへびがとぐろを巻くのにちょうど良いから置いてあるんだ、ただそれだけ。’
-‘ライセンス?あーっ、あれね、犬が食べちゃったんだよ。’
などなど、なるほど。やっぱり違いますね、なんたって年季が入ってますよ。ともあれ、前記の言い訳では十分でなく、全員罰金と新しいライセンス料を払わされたそうです。
日本でも受信料不払いに関して政府が法律を改正し、全ての人からもれなく徴収できるようにするよう準備を進めていると聞きました。もしくは国営を止めて民営にするとかいう提案もあるそうです。これはイギリスでも論議されていて、将来そうなる可能性も無きにしも非ず、です。
最後に、私の母に聞きました。うちでは受信料を払っているのかどうか、と。なぜなら朝ドラも大河ドラマも相撲も高校野球も紅白も見ない母がNHKを見るのは、年に一度あるかないかだからです。(それが何だかは本人にもわからないそうですが)
‘もちろん払っているよ!’
‘えーっ、だってめったに見ないのに。うちは見ません、って言えばそれまでらしいよ。’
‘いいさあ、そんなこと。慈善事業に寄付してると思えばいいんだから。’

ヘッ?NHKって慈善事業なの、ふう~ん。まあ、寄付した後はどこにお金が使われているのかわからない点では同じかもしれないけど。
でも、こんなことまで言われてていいんですか? マジで私の母でさえも見るような番組を作ってほしいものだと思いますよ、NHKさん!